
マンション管理組合が「理事長」などの役員を外部の専門家に委託するケースが増えています。特に国家資格をもつ「マンション管理士」が候補となることが多いですが、個人事業主や小規模法人が相手だと、信頼性や安全面に不安を感じる管理組合も少なくありません。そんなときの備えとして注目されているのが「管理組合損害補償金給付制度」です。この記事では、万が一に備えたこの制度の仕組みと活用方法について学んでいきます。
外部専門家に役員を委託する際の不安とは?
マンションの管理組合では、「理事長」「理事」「監事」といった役員を区分所有者の中から選任するのが基本です。しかし近年では、住民の高齢化や賃貸化の進行によって、役員の“なり手不足”が深刻化しています。
こうした背景から、平成28年の標準管理規約改正では、区分所有者以外の第三者に役員を委託する「第三者管理方式」が推奨されるようになりました(※国土交通省「マンション標準管理規約」参照)。
その際、国家資格を持つ「マンション管理士」が候補となることが多いのですが、特に個人で活動している場合には、万が一の不正行為による金銭トラブルなどが懸念されるという声もあります。
実際に、外部専門家が理事長に就任したマンションで、管理組合の資金を着服するようなトラブルが報告されるケースも増加しています。
安心を支える「管理組合損害補償金給付制度」とは?
こうした不安を解消するために生まれたのが「管理組合損害補償金給付制度」です。これは、マンション管理士が役員などに就任した際に不正行為をおこなった場合、管理組合が受けた金銭的損害を補償する制度です。2018年(平成30年)10月から、公益社団法人日本マンション管理士会連合会(日管連)によって運用が開始されました。
制度の概要(出典:日本マンション管理士会連合会「管理組合損害補償金給付制度」パンフレット https://www.nichikanren.or.jp/)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 対象管理組合 | 日本マンション管理士会連合会(日管連)に所属する「認定マンション管理士」を「理事長」「理事」「監事」「管理者」として委託する管理組合(※認定管理士が口座印を管理していることが条件) |
| 補償内容 | 認定マンション管理士が不正行為(窃盗、強盗、詐欺、横領等)を行い、管理組合に損害を与えた場合、日管連がその損害を補償 |
| 補償上限額 | 最大 3億円(実損害相当額) |
| 費用負担 | 管理組合の費用負担はなし(無料) |
この制度の対象となるのは、「認定マンション管理士制度(※2020年創設)」に登録しているマンション管理士のみです(参考:日管連「認定マンション管理士制度概要」)。
まとめ
マンション管理組合では、居住者の高齢化や賃貸化の進展により、役員の担い手不足がますます深刻化しています。こうした状況を受け、国も標準管理規約の改正を通じて、区分所有者以外の外部専門家を理事などに登用する「第三者管理制度」の活用を推進しています。外部の認定マンション管理士を管理者や理事に迎える際には、ルール整備とともに、万が一に備えた制度の利用も重要です。特に個人のマンション管理士に依頼する場合、金銭トラブルに備えて「管理組合損害補償金給付制度」を活用することで、管理組合の不安を大きく軽減できます。この制度は、理事長など外部委託のハードルを下げ、より持続可能なマンション管理体制を築くための有力な選択肢といえるでしょう。