
近年、コロナ禍をきっかけにマンション管理組合のIT化が急速に進みました。これまでの管理業務は、紙の回覧や対面の打ち合わせといった非効率な手段が中心でしたが、今やグループウェアやWeb会議、さらにAI技術を活用した“スマートな理事会運営”が現実のものになりつつあります。この記事では、ITとAIを活用したマンション管理の今とこれから、そしてその障壁となる課題について学んでいきます。
理事会と管理会社のやりとりもデジタル化が進む
多くのマンションでは、理事会と管理会社(フロント担当)とのやりとりが電話やメール、あるいは郵便に頼っています。しかし、理事会のスケジュール調整を紙の回覧や郵送で行うのは、非効率そのものです。最近では、グループウェアやWeb会議の導入により、情報共有のスピードと正確性が大きく向上しています。
| 従来の手法 | IT化された手法 |
|---|---|
| 郵送での資料送付 | クラウド共有やグループウェア |
| 電話での連絡調整 | メール・チャットツールで即時確認 |
| 対面での会議 | ZoomやTeamsなどのWeb会議 |
| 紙の議事録確認 | データ共有・オンラインでの修正 |
IT化を阻む「メールも使えない理事」の存在
IT化の流れにおいて最も大きな障壁となるのが、インターネットやメールを使えない居住者や理事長の存在です。管理会社の担当者にとっても、連絡が取りづらい理事は大きな負担です。日中の電話も難しい場合は、やむなく訪問や郵送に頼らざるを得ず、結果として理事会運営が滞ってしまうこともあります。
「スマホが使える理事長」が理想的な理由
たとえば、グループウェアを導入していれば、議事録の共有や理事間のやりとりが格段にスムーズになります。履歴も残るため、後々のトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。理事長は管理会社との連絡が多いため、スマートフォンやパソコンが使えることが、もはや基本条件といえるかもしれません。
理事間の情報共有もグループウェアが有効
理事同士で連絡先を交換することに抵抗感を持つ人も多く、連絡は管理会社を通してのみというケースもあります。しかし、協力的な理事会運営には、せめてメールアドレスの共有はしておきたいところです。以下のようなグループウェアを使えば、個人のプライバシーを守りつつ円滑な連絡が可能になります。
| ツール名 | 特徴 |
|---|---|
| Mcloud | マンション管理組合専用のグループウェア。理事会支援、ワークフロー申請、総会機能など多機能を備える。 |
| POCKET HOME | 総会への出席・議決権行使が可能なアプリ。LINE連携やAI自宅査定などの機能も搭載。 |
| e投票 | 総会の出欠確認や議決権行使をオンラインで行える電子投票システム。 |
IT化と標準管理規約の改正
2021年の「マンション標準管理規約」の改正により、ITを活用した理事会や総会の開催が正式に可能となりました。これにより、Web会議システムを利用したオンライン理事会や、オンライン総会、さらには電子投票まで対応できるようになっています。
| IT活用の内容 | 概要 |
|---|---|
| オンライン理事会 | Zoom、Teamsなどで開催 |
| 電子投票 | スマホやPCで投票できるシステム |
| 書類の電子化 | 図面や議事録のデータ保管と共有 |
AI技術の導入と今後の可能性
マンション管理におけるAIの導入も、すでに一部で始まっています。
たとえば、大京アステージが2023年から開始した「AI管理員」「AIコンシェルジュ」の実証実験では、エントランスや共用部に設置されたタブレットやセンサーを通じて、居住者が問い合わせを行うとAIが自動応答する仕組みを導入しています。具体的には以下のようなサービスです。
| AI管理機能 | 役割 |
|---|---|
| AIコンシェルジュ | ゴミ出しルールや管理会社連絡先の案内、予約管理などを自動応答 |
| AIカメラ監視 | 共用部の監視や不審者検知、設備の異常を通知 |
| AIチャット窓口 | 24時間対応の問い合わせサポートで管理会社の業務を軽減 |
これらのAIは、居住者の質問対応のほか、理事会向けに議事録の自動作成やスケジュール調整支援などにも展開されつつあります。今後は、AIが管理会社のフロント業務の一部を担う時代も視野に入っており、省人化・効率化が進んでいくと考えられます。
※参考:大京アステージ AIコンシェルジュ実証実験
電子化の落とし穴と現実的な対策
IT化が進む一方で、「紙の方が慣れている」「ネットが使えない」といった理由で、紙と併用しなければならない現実もあります。このように、全員がITに対応していない環境では、IT化が逆に非効率になることもありえます。
しかし、少子高齢化や人手不足、管理員のなり手不足など、社会全体の変化に対応していくためには、段階的なIT化とAIの導入が避けられない時代となっています。
まとめ
マンション管理組合の運営は、依然として掲示板や紙の回覧などアナログな方法に依存している部分が多く残っています。しかし、コロナ禍を契機に、オンライン理事会や電子投票、書類のデジタル化といったIT化の流れが加速しました。さらに近年では、AIコンシェルジュやAI管理員の導入も始まり、マンション管理の現場でもAIが力を発揮し始めています。理事会を円滑に運営していくためには、スマートフォンやパソコンの操作が可能な理事長の存在が重要であり、理事間の連携を深めるグループウェアやAIの活用も大いに有効です。今後、ITとAIを適切に活用していくことで、住民の負担を軽減し、より効率的で公平なマンション管理が実現されていくことでしょう。