
マンション管理組合では、理事や監事などの役員のなり手不足が深刻な課題となっています。高齢化や賃貸化の進行により、役員の候補者が限られていることが背景にあります。しかし、管理規約を見直し、役員の資格要件を柔軟に設定することで、なり手不足の解消が期待できます。この記事では、役員資格の見直し方法とその効果について学んでいきます。
役員資格の現状と課題
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、管理者(理事長)の選任状況は以下の通りです。
| 管理者の属性 | 割合 |
|---|---|
| 区分所有者が理事長を務める | 92.1% |
| 管理会社の社員など第三者が理事長 | 3.7% |
| その他(不在や未定など) | 4.2% |
このように、圧倒的多数の管理組合では区分所有者が理事長を務めており、実質的には居住する組合員から役員を選ぶ運用が主流です。しかし高齢化や空室の増加により、役員候補者が限られる状況が続いています。
管理規約の見直しによる役員資格の拡大
区分所有法では、管理組合の役員資格に制限は設けられていません。そのため、各マンションの管理規約によって役員の資格範囲を柔軟に定めることができます。以下は、管理規約を見直すことで検討できる主な改正内容です。
よくある改正例
| 変更前の規定 | 変更後の規定 |
|---|---|
| 「現に居住する組合員のうちから選任」 | 「組合員のうちから選任」 |
| 組合員のみ対象 | 配偶者や成年の親族も含める |
| 居住者に限定 | 非居住の区分所有者や代理人も含める |
このような見直しによって、役員候補者の母数を増やすことが可能となります。
賃借人や外部者の役員就任についての注意点
さらに踏み込んだ改正として、賃借人や外部の専門家を役員に含める案もあります。ただし、これには慎重な検討が必要です。
たとえば、賃借人が理事として就任すると、建物の資産価値や修繕方針に関する意思決定において、所有者の利益と相反する判断がされる可能性があります。外部の専門家を役員に含める場合も、責任と利益のバランス、ガバナンス上の観点から、透明性と適切な役割分担が求められます。
管理規約の改正手続き
役員資格の見直しには、管理規約の変更が必要です。区分所有法では、管理規約の変更には以下の決議要件が定められています。
- 区分所有者および議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成(区分所有法第31条第2項)
このため、管理規約を変更する際には、事前に組合員に対して丁寧な説明を行い、十分な理解と合意を得ることが大切です。
まとめ
管理組合の役員のなり手不足は、多くのマンションで共通する課題です。高齢化や賃貸化が進む中で、限られた候補者の中から理事を選ぶのはますます難しくなっていきます。そこで、管理規約を見直して役員資格を広げることが、現実的な対応策となります。たとえば「現に居住する組合員」のみに限定せず、「組合員全体」や「その家族」まで対象を広げることで、より多くの人から理事を選任できるようになります。ただし、賃借人や外部者を対象に含める場合には、その影響や役割を十分に検討する必要があります。規約改正には特別決議が必要であり、合意形成のための説明や丁寧な手続きが不可欠です。役員資格の柔軟な見直しは、マンションの健全な管理と理事会の安定運営につながる重要な一歩です。