
地震や火災などの災害が発生した際に、マンション内で迅速かつ的確に安否確認や避難誘導を行うためには、あらかじめ居住者の情報を把握しておくことが欠かせません。そのため、管理組合が独自に「居住者名簿」を作成・更新しておくことが、防災対策として非常に重要です。名簿は、災害時の混乱を防ぎ、住人の命を守る基盤になります。この記事では、居住者名簿の役割や作成時の注意点について学んでいきます。
区分所有者名簿と居住者名簿の違い
マンションでは通常、管理会社が「区分所有者名簿」を管理しています。これは、管理費や修繕積立金などの徴収業務に利用され、主に「所有者」に関する情報が中心です。一方で、実際に居住しているのが賃貸人や家族であるケースも多く、管理会社の名簿では災害時の即時対応には不十分です。
そのため、管理組合が把握しておくべきなのが「居住者名簿」です。これは実際に居住している人の情報をもとに災害時の安否確認や支援の対象を明確にするための資料であり、目的も利用範囲も異なります。
居住者名簿が必要とされる理由
| 災害時の課題 | 居住者名簿がある場合の利点 |
|---|---|
| 誰が住んでいるかわからない | 安否確認や救助対象の特定が容易になる |
| 連絡が取れない | 緊急連絡先をもとに迅速な連絡体制を構築可能 |
| 総会での決議が進まない | 所在の把握により意思決定の停滞を回避 |
実際、東日本大震災や熊本地震では、居住者名簿が整備されていなかったことで安否確認や支援が遅れた事例が報告されています。
国土交通省も防災対応として名簿整備を推奨しており、「名簿を管理組合で整備することは個人情報保護法に反しない」とするガイドライン(※注)も示されています。
居住者名簿に記載すべき主な項目
| 項目 | 補足 |
|---|---|
| 居住者の氏名 | 世帯全員を記載 |
| 年齢 | 高齢者や子どもなど配慮対象の確認に役立つ |
| 緊急連絡先 | 家族や勤務先など複数の連絡先が望ましい |
| 持病・障がいの有無 | 要支援者の把握に活用(任意記載) |
| 不在時の避難先など | 帰宅困難時の所在把握に役立つ(任意) |
※記載項目は管理組合の判断により調整可能です。プライバシーに配慮し、任意での提出を原則とします。
プライバシー保護への配慮
名簿の整備にあたっては、個人情報保護法や住人のプライバシー意識に十分な配慮が必要です。国交省のガイドライン(2023年改訂)でも、「防災を目的とした名簿の整備は合理的な利用目的に該当し、法に抵触しない」とされており、以下のような取り組みが求められています。
| 対応事項 | 内容 |
|---|---|
| 目的の明示 | 「災害時の安否確認・救助支援のため」などと説明 |
| 管理ルールの策定 | 閲覧は災害時のみ、管理責任者の指定、施錠管理等 |
| 適切な保管 | 管理室の金庫など、施錠可能な場所に保管 |
| 同意の取得 | 書面での同意書や提出用フォーマットの活用 |
居住者の理解を得るコツ
最近では個人情報に対する関心が高まっており、名簿作成への協力が得にくい場合もあります。そのようなときは、最初から完璧な名簿を目指すのではなく、最低限の情報(氏名・連絡先)からスタートするのが現実的です。住民説明会や掲示板などを活用して、「何のために必要なのか」を丁寧に説明する姿勢が信頼につながります。
まとめ
マンションにおける居住者名簿の整備は、災害時の初動対応や住人の安全確保に不可欠な取り組みです。管理会社が持つ区分所有者名簿とは別に、実際の居住者に関する情報を管理組合が把握する必要があります。個人情報保護の観点からは、利用目的の明確化や適切な保管、本人の同意取得がポイントとなります。近年では国や自治体も名簿整備の必要性を明言しており、防災体制の第一歩として名簿の作成・更新に取り組む管理組合が増えています。最初は最低限の情報から始め、住民との信頼関係を築きながら徐々に充実させていくことが現実的な進め方です。