
分譲マンションにおける大規模修繕工事では、設計コンサルタントを起用する「設計監理方式」が主流となっています。中立的な立場で設計や監理を担うことで、工事の質や費用の妥当性が確保されるとされてきました。しかし近年、施工業者との癒着や不正なバックマージンの授受など、コンサルタントの不適切な行為が各地で報告されています。そのため、あえてコンサルタントを介さず、設計と施工を一括で依頼する「責任施工方式」が再評価されつつあります。この記事では、それぞれの工事方式の特徴と課題を比較し、マンション管理組合が取るべき選択肢について考えていきます。
責任施工方式(せきにんせこうほうしき)とは?
大規模修繕工事の方式には、「設計監理方式」と「責任施工方式」の2つがあります。責任施工方式は、設計から施工までを同一の施工業者に一括発注する方式で、煩雑なやり取りが不要となるため、理事会の負担軽減が期待できます。
責任施工方式のメリット
| メリット | 説明 |
|---|---|
| 手間が少ない | 設計・施工を同一業者に依頼するため、理事会や修繕委員会の対応が簡素化される |
| 費用を抑えやすい | 設計コンサルタントへの費用が不要で、小規模マンションでは特にコストメリットがある |
| 責任の所在が明確 | 瑕疵や不具合があった場合でも、設計・施工の責任が一本化されておりトラブルが少ない |
責任施工方式のデメリット
| デメリット | 説明 |
|---|---|
| 第三者のチェックがない | 工事内容の妥当性を独立した立場で評価する仕組みがなく、品質にばらつきが出やすい |
| 業者選びが重要 | 信頼できる施工会社に依頼しなければ、設計内容が不十分であったり、見落としが発生する可能性がある |
設計監理方式の問題点
設計と施工を分離することで工事の透明性を確保できるのが「設計監理方式」の本来のメリットですが、設計コンサルタントの中には施工業者からのバックマージンを目的とする不適切な業者も存在しており、国土交通省も注意喚起を続けています(例:平成29年1月の通知)。
国土交通省による問題提起(要旨)
- コンサルタントが施工業者と癒着し、安価な見積りで受注しても実際の設計や診断を業者に丸投げ
- 工事内容や数量を特定業者にだけ有利になるよう調整
- 割安なコンサル料の裏で高額な工事費を誘導し、管理組合に損害を与える など
設計監理方式のその他の課題
| 問題点 | 説明 |
|---|---|
| 設計費用が高い | 設計・監理費用が総工費の約10%前後かかるケースが多い |
| 瑕疵保険に頼れないこともある | 工事瑕疵保険の加入が一般化してきているが、すべての工事に適用されるわけではない |
| 責任分担が曖昧 | 設計・施工間で責任のなすり合いが発生する可能性がある |
| 過剰設計の誘導リスク | 不要な修繕を共通見積書に含めて、費用を増やすケースがある |
| 理事会の負担が重い | 業者選定や説明会開催など、組合の対応業務が多くなる |
見直される責任施工方式
責任施工方式では、設計・施工を一貫して任せることで、無駄のない計画とスムーズな工事が可能になります。信頼できる業者を選べば、費用も抑えられ、工事後の責任も明確です。また、近年では管理会社以外にも責任施工方式に対応した修繕専門会社が増えており、選択肢が広がっています。
ただし競争原理を働かせるためにも、相見積もりの取得や工事仕様の事前チェックは欠かせません。
まとめ
これまで分譲マンションにおける大規模修繕工事では、設計コンサルタントを活用する「設計監理方式」が主流でした。しかし近年では、国土交通省も警鐘を鳴らすように、設計コンサルタントと施工業者の不適切な関係やバックマージンの問題が深刻化しており、理事会の負担やリスクがかえって増すケースも報告されています。そのような中、信頼できる業者に一括で依頼する「責任施工方式」もあらためて注目され始めています。とくに中小規模のマンションでは、費用面や事務負担の軽減という観点から現実的な選択肢となる可能性があります。いずれの方式を採用するにしても、管理組合が冷静に情報を精査し、理事会や修繕委員会が主導して透明性の高いプロセスを築くことが、将来の安心につながります。