UPDATE|役員報酬の相場・導入手続き・税務上の注意点
「なり手不足対策として役員報酬を導入したい」「金額はいくらが相場?」「源泉徴収は必要?」──マンション管理組合で広がる役員報酬制について、標準管理規約第37条の位置づけ、役職別の相場、規約改正を伴う導入手続き、税務上の注意点、そして外部専門家・第三者管理方式という代替案まで、国交省マンション総合調査データをもとに整理します。
マンション管理組合の役員(理事・監事)は、長らくボランティアで担うことが原則とされてきましたが、居住者の高齢化や共働き世帯の増加を背景に、役員のなり手不足が深刻化しています。その対策の一つとして近年広がっているのが「役員報酬制」です。役員に一定の報酬を支払うことで、業務負担に見合う対価を保証し、なり手を確保しやすくする仕組みです。
本記事では、役員報酬制の導入メリット・役職別相場・規約改正手続き・税務上の注意点・代替案まで、実務者向けに整理して解説します。
こんな方におすすめの記事です
- 役員のなり手不足に悩む管理組合
- 役員報酬制の導入を検討している理事会
- 報酬金額・規約改正の手続きを調べている新任理事長
- 外部専門家・第三者管理との比較を知りたい管理組合
役員報酬制が広がる背景|ボランティア運営の限界
管理組合の役員は、理事会で月に1〜2回の会合に出席し、居住者からのクレーム対応、管理会社との折衝、大規模修繕や管理会社変更の意思決定など、幅広い業務を担います。休日が理事会で潰れる、夜遅い電話で対応を迫られるといった負担の大きさから、役員就任を避けたい区分所有者が増えています。
こうした背景から「これだけの負担に無報酬では持続しない」という現実認識が広がり、役員報酬制を導入する管理組合が増えています。報酬を支払うことで、役員業務を責任ある仕事として位置づけ、なり手不足の緩和につなげる狙いがあります。
役員報酬制の導入割合と支払額の相場
国土交通省のマンション総合調査によると、役員報酬を支払っている管理組合は年々増加傾向にあります。平成30年度調査では「役員全員に報酬を支払っている」が約23.1%、「理事長のみに報酬」が約1.1%で、合計約4分の1の管理組合で何らかの役員報酬が支給されていました。
令和5年度の最新調査ではこの比率がさらに上昇し、築年数の経過した大規模マンションで導入が進んでいます。
| 役職 | 月額報酬の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 理事長 | 5,000〜20,000円程度 | 負担が最も大きく、他の役員より高く設定する例が多い |
| 副理事長・会計 | 3,000〜10,000円程度 | 理事長の補佐・会計監督など責任に応じた金額 |
| 一般理事・監事 | 2,000〜5,000円程度 | 「役員一律」で設定する管理組合も多い |
報酬は「役員一律」「理事長のみ」「役職ごとに差を付ける」の3パターンに大別されます。負担の大きさに応じた差を付ける方が納得感は得られやすい一方、金額決定の議論が長引く傾向もあります。
標準管理規約における役員報酬の位置づけ
国土交通省が公表しているマンション標準管理規約では、役員が報酬を受け取ることが明確に想定されています。したがって、管理規約または細則の定めに従って役員報酬を支給することは、制度的に何ら問題はありません。
マンション標準管理規約 第37条(役員の誠実義務等)
2 役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
役員報酬制を導入する手続き|規約改正の流れ
現状の管理規約に役員報酬の規定がない場合は、管理規約の変更が必要となり、総会の特別決議を要します。2026年4月1日施行の改正区分所有法と、令和7年10月に改正・公表されたマンション標準管理規約により、定足数を満たした総会で、出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上を基準とする整理に見直されています(実際の要件は管理規約をご確認ください)。
すでに規約に定めがあり、具体的な金額だけを変更する場合は、細則の変更または普通決議で足りるケースもあります。
- 役員報酬に関する細則を作成:「誰に・いつ・いくら・どのように」支払うかを明確にする。具体金額は細則で定めるのが一般的
- 総会で決議:規約改正を伴う場合は特別決議、細則のみの改正なら普通決議。議案には報酬額の根拠(他マンション事例・業務負担分析)を添付すると合意形成がスムーズ
- 会計処理と税務対応:役員報酬は「役員報酬」または「人件費」として計上。金額によっては源泉徴収が必要となるため、税理士・管理会社と事前確認
注意点|報酬と実費弁償は明確に区別する
役員業務で発生した交通費・会議費・通信費などの「経費」は、領収書に基づいて実費弁償として支払うべきものであり、報酬とは性質が異なります。領収書が伴わない精算は税務上「給与所得」と見なされ、源泉徴収の対象になるケースがあるため注意が必要です。
- 実費弁償:領収書の提出を必須とし、会計担当理事が台帳で管理
- 役員報酬:「雑所得」または「給与所得」として申告対象となるケースがあり、金額や支払頻度によって源泉徴収の要否を税理士に確認
- 管理組合側の申告義務:年間報酬額が一定基準を超える場合、管理組合側に税務申告義務が生じる可能性あり
役員報酬制のデメリットと代替案
役員報酬制は万能ではなく、導入にあたっては次のような懸念も議論されます。
- 管理組合の追加コスト発生:結果的に全組合員の管理費負担につながる
- 役員への過剰な期待:「報酬を受け取っているのだから仕事をして当然」という見方が強まり、クレーム増加の原因に
- 議論の長期化:報酬金額の議論で総会が紛糾することがある
- 第三者管理方式への議論展開:「どうせ費用負担が増えるなら外部専門家に理事を任せたい」という流れになるケースも
役員報酬制を導入しても解消しない場合や、役員の負担が過重と感じられる場合には、以下の代替案も検討対象となります。
- 外部専門家の登用:マンション管理士などを役員の一部に採用
- 理事長代行サービス:理事長業務のみを外部委託
- 第三者管理方式:管理会社が管理者となる方式への移行
なり手不足全般の対策はマンション管理組合の役員なり手不足|役員資格要件の見直しと負担軽減策もあわせてご覧ください。
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まとめ|報酬制は「管理組合が自分たちで決める」のが原則
マンション管理組合の役員報酬制について、ポイントを整理すると以下のとおりです。
- 標準管理規約第37条で正式に認められている:管理組合が自主的に導入判断できる
- 役職別相場は理事長5千〜2万円/月程度:マンション規模・業務量で大きく異なる
- 規約改正には特別決議が必要:細則のみの改正なら普通決議で足りるケースも
- 実費弁償と報酬は明確に区別:源泉徴収の要否は税理士・管理会社と事前確認
- 代替案(外部専門家・第三者管理)も選択肢:報酬制は万能ではない
理事会が主体となって論点を整理し、組合員の声を丁寧に集めて「自分たちの管理組合にとって最適な制度設計」を議論することが重要です。報酬制を入り口に、役員の負担分担・外部専門家の活用・第三者管理方式など、より広い運営改革の議論につなげていく姿勢が求められます。
