大規模修繕のトラブルは、契約後に突然起きるものばかりではありません。発注の進め方に芽があり、それが工事中や工事後に表面化します。代表的な三つ、談合による割高、手抜き、追加請求を取り上げ、教訓を整理します。
ここで挙げる事例は、特定の管理会社や施工会社の話ではありません。よくある形を一般化したものです。社名や個別の業者を名指しすることはしません。構造を知れば、自分の組合で同じ芽がないかを見直せます。
事例1 談合による割高発注
ある組合で、複数社から見積りを取ったはずなのに、金額が不自然にそろっていた、という形があります。相見積りの体裁は整っているのに、競争が働いていない状態です。
この背景には、受注する業者や価格を事前に調整する動きが疑われます。設計監理方式では、設計コンサルが施工会社の選定を補助します。そのコンサルが受注調整に関わると、組合に不利益が及びうる構図になります。
2026年6月の報道では、関東地方のマンション大規模修繕をめぐり、施工会社と設計コンサルあわせて計約40社の独占禁止法違反、つまり入札談合が認定される方針が固められたと伝えられました。課徴金は計約16億円を命じる方針とされ、排除措置命令の対象は報道では38社とされます。対象期間は遅くとも2021年秋ごろ以降とされています。
報道の時点では、公正取引委員会の「方針」段階で、正式な命令の発出前でした。近く命令が出る見込みと報じられた段階です。手口は設計監理方式の悪用で、コンサルが受注調整に関与し、受注業者から受注額の数パーセント程度、報道では5%前後をバックマージンとして得ていたとされるのが構造的な特徴です。なお、課徴金減免制度、いわゆるリーニエンシーを自主申告で適用した社もあるとされます。
教訓は、相見積りは取り方しだいで形だけになる、という点です。コンサルと施工会社の利害関係を確かめ、選定の過程を記録に残すことが、割高を防ぐ判断材料になります。
事例2 手抜き工事
仕上がりはきれいに見えるのに、数年で不具合が出た、という形があります。下地補修や防水層など、覆われて見えなくなる工程に手抜きが起きると、表面からは分かりません。
このトラブルの芽は、工事中のチェックの薄さにあります。施工する側だけが品質を管理し、別の目が入らないと、確認が形だけになりがちです。
- 見えなくなる工程の写真記録が乏しい
- 各工程の区切りで検査と記録が行われていない
- 監理者が施工会社と利害でつながり、確認が甘くなる
- 数量の精算が、実際の記録と照合されていない
教訓は、見えなくなる工程ほど記録で確かめる、という点です。作業前・作業中・作業後の写真をそろえてもらい、監理と施工の役割を分けます。手直しが必要なときも、記録があれば交渉の根拠になります。
事例3 想定外の追加請求
契約後に「やってみたら必要だった」として、追加の費用が次々に積み上がる、という形があります。当初の見積りが安く見えても、最終的に費用が膨らむことがあります。
追加自体が悪いわけではありません。建物を開けてみないと分からない劣化はあります。問題は、根拠の説明がないまま費用だけが動くことです。
- 当初の仕様に含まれない理由が説明されない
- 追加の数量や単価の根拠が示されない
- 書面を残さず口頭で了承を求められる
- 定例会議の場で即断を迫られる
教訓は、費用が動く変更は書面で根拠を残す、という点です。なぜ当初の仕様になかったのかを確かめ、その場で安易に了承しません。追加が見込まれる箇所を契約前にどう扱うか、取り決めておくと混乱を防げます。
トラブルに共通する芽と備え
三つの事例には、共通する芽があります。情報が業者側に偏り、組合がその差を埋められていない状態です。確認する側と工事する側の独立が弱いと、トラブルが見えにくくなります。
| トラブル | 芽になりやすい状態 | 備え |
|---|---|---|
| 談合 | 競争が形だけ、選定の記録が薄い | 相見積りの取り方を整え、利害関係を確認 |
| 手抜き | 見えない工程の記録が乏しい | 写真記録と工程ごとの検査を求める |
| 追加請求 | 根拠説明なく費用が動く | 書面で根拠を残し、即断を避ける |
国土交通省も、設計コンサルが施工会社からマージンを受け取り、高額や過剰な工事へ誘導しうる事例を挙げて注意喚起しています。発注の透明化や相見積りでの適正な検討を促す内容です。
ここで大切なのは、設計監理方式やコンサルを一律に悪者にしないことです。設計監理方式は、中立性が確保されていれば有効な進め方です。コンサルと施工会社の利害関係の確認、相見積り、透明化、第三者チェックといった手立てで、リスクは下げられます。
まとめ
談合・手抜き・追加請求のトラブルは、それぞれ別物に見えて、情報の偏りという共通の芽から生まれます。相見積りの取り方を整えて選定を記録し、見えない工程は写真と検査で確かめ、費用が動く変更は書面で根拠を残します。2026年6月の報道のように、設計監理方式の悪用が問題になった例もありますが、方式そのものではなく中立性の確保が分かれ目です。事例を自分の組合に重ね、芽がないかを見直すことが、割高や不具合を防ぐ判断材料になります。
