管理会社が管理者を引き受ける方式は、理事のなり手不足を補う選択肢として広がっています。一方で、組合のために発注する立場と、工事を請け負って利益を得る立場が、同じ会社に重なる場合があります。この重なりが利益相反です。仕組みを知り、相見積りや情報開示、契約での歯止めを用意すれば、便利さを保ったままリスクを抑えられます。
利益相反とは、ある立場の人の利益と、その人が代理する相手の利益がぶつかる状態を指します。管理会社が管理者になると、組合の代理人として最善を選ぶ役割と、自社の売上を増やしたい立場とが、同じ会社の中に同居します。悪意がなくても、構造として生まれる問題だという点が出発点です。
特定の管理会社を問題視する話ではありません。多くの管理会社は適正に業務を行っています。ただ、仕組みとして衝突が起きうる以上、組合の側で確認と監督の手順を持っておく必要があります。
発注者と受注者が同じになる構造
管理者管理方式では、組合の判断の多くを管理者が代わりに進めます。工事を発注する権限も、管理者である管理会社の手に集まりやすくなります。その発注先に、自社やグループ会社が含まれることがあります。つまり、発注する側と受注する側が同じ会社になり得ます。
この構造では、次のような疑問が生じやすくなります。
- 工事金額が妥当か、誰が組合側の立場で確かめるのか
- 他社のほうが安く良い場合に、その情報が組合に届くのか
- 工事の品質を監督する人が、受注者と同じ会社でよいのか
国土交通省が2023年に行った実態調査でも、この重なりが数字で確認されています。大規模修繕工事を、管理者である管理会社自身が受注し得るケースが約45%に上ると報告されました。発注と受注が分かれていない状態が、決して珍しくないということです。
修繕積立金と通帳の保管で起きる問題
もう一つの論点が、修繕積立金など組合のお金の保管です。修繕積立金は、将来の大規模修繕に備えて区分所有者が長く積み立てるお金です。通帳と銀行印を同じ会社がまとめて持っていると、出金の判断と実行を一社が握ることになります。
同じ2023年の調査では、組合の通帳と印鑑をともに管理会社が保管しているケースが約76%と報告されました。多くの組合で、お金の管理が一社に集中している状況がうかがえます。
お金の保管が一社に集中すると、次の点が弱くなります。
- 出金が適正かを、組合側で独立して確かめにくい
- 積立金が、優先度の判断が不透明な支出に向かいやすい
- 不正やミスがあったとき、発見が遅れやすい
積立金の残高や入出金が組合に十分開示されないまま運用されると、不適切な支出に気づくのが遅れます。年ごとの内訳を確認できる状態にしておくことが、大切な確認事項になります。
2025年の法改正で変わった点
こうした問題を受けて、制度の側も動いています。区分所有法は2025年に約20年ぶりに改正され、その一部は2026年4月1日に施行されます。複数の改正をまとめた法律のため、施行の時期は内容ごとに分かれます。すべてが2026年4月に施行されるわけではありません。
改正の中では、管理会社が管理者として工事を発注する際の利益相反取引について、事前に説明することが義務づけられました。発注の前に、自社が関係する取引であることを組合へ示す必要があるという考え方です。
説明が義務になっても、それだけで問題が消えるわけではありません。組合の側が、説明を受けて判断し、必要なら止められる仕組みを規約や契約に備えておくことが大切です。
契約と監督で設ける歯止め
国土交通省のガイドラインは、利益相反への具体的な対策を示しています。便利さを残しつつチェックを効かせるための、実務上の定石です。
| 対策 | ねらい |
|---|---|
| 通帳と銀行印を分けて外部保管 | お金の管理を一社に集中させない |
| 外部監査の活用 | 第三者の目で会計を確かめる |
| 自己監査の禁止 | 受注者が自分の仕事を監査しない |
| 一定額以上は承認制 | 大きな契約を組合の判断にかける |
これらを踏まえ、契約や規約で次のような歯止めを用意しておくと、構造的なリスクを下げられます。
- 一定金額以上の工事は相見積りを取り、結果を組合へ開示する
- 工事の監督役を、受注する会社とは別に置く
- 発注の判断材料を理事や区分所有者に開示する
- 管理者を解任しやすい規定を、あらかじめ規約に入れておく
区分所有法では、管理者の選任と解任は集会、つまり総会の決議によると定められています。組合はいつでも管理者を見直せる立場にあります。問題は特定の会社にあるのではなく、発注と受注、保管と監督が同じ会社に重なる構造そのものにあります。そこへ歯止めを設けるという考え方が軸になります。
まとめ
管理会社が管理者になる方式は、理事会の負担を減らせる有効な進め方です。同時に、工事の発注・受注と、修繕積立金や通帳の保管が一社に集中しやすい構造を抱えます。国の2023年調査では、管理会社自身が大規模修繕を受注し得るケースが約45%、通帳と印鑑をともに管理会社が保管するケースが約76%と報告されました。2025年の区分所有法改正では、利益相反取引の事前説明が義務づけられています。相見積りと情報開示、外部監査、自己監査の禁止、一定額以上の承認制といった歯止めを契約と規約に組み込み、便利さと監督のバランスを取ることが、判断のかなめになります。
